2019年06月28日

となりの

夫婦ふたりで長年洋食屋を営んできたご主人が不慮の病に倒れてしまい,死期がせまったある日,長年連れそった奥様にこう頼んだそうです。<俺が死んだら,いつも店の調理場で着ていた仕事着(コックコート)を着せて棺桶に入れてほしいんだ>

唐突な申し出に奥様は<なぜ?>と問いかけると,<まだ店の借金が残っているだろう。お前ひとりに押しつけたまま先に逝ってしまうのはどうにも心苦しい。だからあの世に行ってもすぐ働けるようしたいんだ>,そう答えたとか。

N0882.JPG神戸淡路大震災のため,ご夫婦の店も住まいも全壊,何もかも失ってしまったそうです。すっかり途方に暮れながらも,まだ互いに若かったこともあり,何のこれしき,とはてしないマイナス・スタートからやり直す決意を固め,銀行から融資を受け洋食屋を再開したとのこと。

なんとか店のほうも軌道に乗り,なじみのお客様もどんどん増えてすっかり町の顔になってきたのに,好事魔多しとはこのこと,ご主人に不治の病が見つかり,発見したときにはかなり進行していて余命が数カ月,ご主人は<俺はまだまだたくさん働きたかった>と奥様の前で人目もはばからず号泣したそうです。

かといって奥様には調理の経験もなく,ご主人が亡きあとは店を継ぐことはできないので,店をたたむつもりでいたようです。されど,死ぬ間際の言葉に接した瞬間,ハートに火がついてしまったのです。

<俺の味が出せなくても構わないんだよ。お前が一生懸命でやっていれば,お客は必ずついてきてくれるもんさ>そんな優しい励ましもグイと背中を押してくれたとか。こうして,ご主人が存命のころと変わらぬファンが毎日たくさんやってきてくれるように。

こんな素晴らしい話ってあるのですね。これは関テレで平日の10時すぎから毎日放映される,<となりの人間国宝>のワンシーンでした。技芸を極めた人間国宝ではなく,どんなに辛いことがあっても人生を前向きに明るくとらえることのできる名手という点で,人に感動と勇気を与えてくれると考えたら,これも貴重な宝であるに違いありません。

2019.6.28 いろは
posted by Don and Mama Mind at 08:53| 諸々 | 更新情報をチェックする